新卒訪問看護師の勧め⑦【初めてのお看取りの話】

皆様こんにちは。
新卒で訪問看護師になった小川綾乃です。

今日は私の初めてのお看取りの話をさせて頂きます。
Kさんは脳血管疾患で終末期と言われ、
ご家族がお家で看取りたいと希望してお家に戻られました。
退院後、既に3年経過した頃に初めてお会いしました。
終末期の定義って何だろう、と思わざるを得ないほどに長くご存命だったのは
きっと娘さんの丁寧なケアと娘さんのご家族の皆さんが
常にコミュニケーションを取ろうとするお気持ちの賜物だったのだと思います。

四肢麻痺で寝たきり、反応は目の動きと「あー」という言葉だけ。
それでもご家族はまるでお話をしているかのように
コミュニケーションを取っていました。
楽しいことと人のちょっとした失敗話が大好きなKさん。
私の訪問時にも娘さんが大好きな落語のCDをかけてくださったり
面白い話、ちょっとした失敗談を話すと大声で笑っていらっしゃいました。

楽しい日々は過ぎ、確実にお別れの時が近付いてきました。
私は人の命の灯が消えていく流れを見ながら
「あと少しだけ、あと少しだけKさんと一緒にいさせてください」と
毎日祈るような気持ちでお伺いしていました。

時の流れも自然の経過も止めることは出来ず
ご家族の願いも私の願いも空しく、
ついに医師から「あと1~2週間」というお話がご家族にありました。

医師からの説明の翌日はよく晴れた日でした。
私の訪問時に私にきれいな空色の光沢のある着物を見せてくださいました。
「お母さんのお別れの着物。いつかこういう日が来ると思って仕立てておいたの」と。
それはその日の空のようにきれいな空色でした。

遠方にいてお別れの出来ないKさんの
ご姉妹には娘さんが電話をかけて
枕元に置いて声を聞かせてさしあげ、
来られるご兄弟は車でお迎えに行きお別れ
をしてもらい、娘さんは最期の日まで
お母さんのために精一杯の介護をされていました。

お孫さんも出勤前にはKさんに頬ずりを
して抱きしめて「行ってきます」を言う
当たり前の毎日を大切にしていました。
 
 
「呼吸が止まってからお電話をください」そう伝えた秋の日の早朝に
Kさんはご家族みんなに見守られ、抱きしめられながら旅立ちました。

エンゼルケアの為に訪問した日の空は
やはりお着物と同じ空の色でよく晴れた日でした。

エンゼルケアの最後にお孫さんが来られ
「私がおばあちゃんのメイクをしてもいい?」と聞かれました。
「もちろんです。おばあさまも喜ばれますよ」とお伝えして
お孫さんによるお化粧が行われました。
お孫さんが日ごろしているややギャルっぽいメイクになりみんなで大笑い。
 
 
そして私はもう来ることのない道を自転車をこいで帰りました。

私の初めてのお看取りはKさんとご家族のおかげで素敵な思い出に包まれています。
そしてその経験が今でも私を支えてくれています。